「常に遊び心を忘れず、何でも自分たちでやることで何か学びがある。」
認定NPO法人ハーモニィカレッジ スタッフ
阪本宜之さん
【インタビュアーからの一言】
お話し中、常に和やかな雰囲気を醸し出している方でした。
普段されていることを聞いたとき、仕事ってそんな感じでやって良いのか!と思うほど、馬と楽しく仕事をされている方です。
◦名前、職業
◦ハーモニィカレッジ、馬との出会い
◦「うまっこ」での活動
◦現在の職業について
◦馬の良いところ
◦何でも自分たちでやる時
◦大切にしていること
◦学生へ
名前、職業
角田:お名前とご職業を教えて下さい。
阪本:阪本宜之です。
職業は、ハーモニィカレッジで馬の世話、調教などをしています。背が高いことから、ハーモニィカレッジでのニックネームは「タイタン(巨人)」です。
角田:獣医を目指されていたのですね。
阪本:はい。祖父母に勧められたのがきっかけです。
高校まで、獣医になるために勉強をしてきましたが、模試D判定で獣医になるのを諦めました。浪人はしたくなかった。
両親が共働きだったので、学校が終わったらおばあちゃん家に行く生活をしていました。
おじいちゃんが、女の子泣かしたらいかんっていう「The 男」っていう感じの人で、常に上から目線。野球部だった僕に対して、自分はできないのに「ええ球投げるやん。まあ、俺の方がもっとええ球投げれるけどな。」と言っていました。おじいちゃんっこでした。
その祖父母の家には「ごる」と「さち」(犬)がいました。
獣医になろうと思ったのは、犬好きな僕におばあちゃんが「あんたは優しいから医者か獣医になったほうがいい」と言うので、ああじゃあそうしようと思ったからです。
ハーモニィカレッジ、馬との出会い
~馬ってそんな感じで扱ってええの?!~
角田:現在の職業に就いたきっかけは何ですか?
阪本:「うまっこ」を知ったことです。
鳥取大学に入学した当初、「落語研究会」に入っていました。僕はテンションが高い人たちが好きなので入ってみたら、まあまあ活動が忙しい。
ちょっとこれは大変、もう少し自分のペースでいけるところないかなと思っていたところ、「うまっこ」というサークルのチラシをもらい、落研を辞めて、「うまっこ」に入りました。
角田:そこで馬と出会ったのですね。
阪本:はい。この牧場で初めて馬と出会いました。
馬って敷居高そうじゃないですか。普通、乗れない。でも、ここに来たらそんな感じじゃない。
当時、職員は若くて、ドレッドヘアー、趣味はサーフィンのお兄さん達でした。ふざけあってるし、ポップなノリでした。
誰かのお祝いを牧場でやってくれた時、職員の一人が上半身裸、顔面白塗りでゲンキ(馬)に乗って登場。
馬ってそんな感じに扱ってええの?!と衝撃を受けました(笑)
一般的な「乗馬クラブ(静かにしろとか言われるところ)」とは違う、馬との出会い方をさせてもらいました。
ここでは馬の近くで子供が凧揚げとかしてるので、何じゃここと思いました。
でも居心地が良かったです。
角田:周囲が騒がしくても、馬は気にしないのですか?
阪本:ちっちゃい時からそういう環境なので、動じない子が多いです。
「うまっこ」との出会い
~ここおったら学べることあるんちゃうかな~
角田:阪本さんはなぜ「うまっこ」に入ったのですか?
阪本:「うまっこ」のボランティア募集のチラシを見て楽しそうだったからです。
子供と鬼ごっこしたいなと思ったんです(笑)
その「うまっこ」の活動場所が、ハーモニィカレッジでした。
子供たちと同じ目線で遊んで、尻尾とり、鬼ごっこ、デイキャンプ等をしました。その後の振り返りの内容がとても真剣だったんですよ。
「あの子浮いてたな」
「もっと楽しくできたんちゃうか」
「こどもに口出し過ぎた」
ただ遊ぶだけじゃなかった。現場では楽しいけど、学びも多い。
面白いだけじゃない。「ここおったら学べることあるんちゃうかな」と思い、4年間駆け抜けました!
角田:4年間所属されたのですね。
阪本:はい。でも、大学は1回休学していました。
入学した時は、研究者になりたいと思っていたんですけど、大学で研究をしていたら、これじゃない、でも何したらいいか分からん!てなって、家にこもっていた時期がありました。
家の人やこのハーモニィカレッジの人の力を借りて、「大学は卒業しよう。学びは置いて社会に出よう。」ということにしました。
そして、社会人、面白い大人と沢山会う。これに時間を当てようと思いました。
会いたい人に会いに行く。何をしたいかを持つ。
色んなところに行ってこよう!という大学生活でした。
講義って3回までなら休めるので、その3回をフルに使いました(笑)でもちゃんと単位は取る。
3回フルに休むのはおすすめしません。
現在の職業に就いて
~何事も学びながらやっていこう!~
角田:阪本さんは、馬が好きだから現在の職業に就いたのですか?
阪本:子供と関わるのが楽しいと、最初思いました。
馬もいるけど、ここは教育機関みたいなところ。色んな人の居場所やと思っています。
昔はスタッフ3人で、前代表の石井博史(ひろ)さんが立ち上げました。
現在は、職員2名とスタッフ2名。幼稚園もやっているのですが、そこには5名のスタッフがいます!
角田:お仕事では調教もされるのですね。
阪本:はい。うちでは何でもやるのがコンセプトですから。それこそに学びがあるから、大事にしています。
そして何でも手作りします。
この牧場も自分たちで。不法投棄されたごみの処理、荒れ地の工事、牧場も馬房も全て手作りです。
こうしろとか言われないので、何でもやってええんや!と思いました。
調教も学びながらやっていこう!という感じでやってます。何事も学びながらやっていくものですから。
世の中って全部、誰かの作られてきたもんでできてるって実感します。
型とか法律とかあるけど、自分でも作れるんやなっていうのを学ばせてもらってます。ロケットももしかしたら飛ばせるんちゃうか(笑)
そういう時は、誰かと力を合わせてやっていけばええと思います。
角田:幅広い年代の人がここを居場所だと思えるのは何故でしょう?
阪本:「ありのままでいいんだよ。そのままでいいんだよ。」が先代の口癖で、ありのままを受け入れる考えが職員、学生の間に根付いていていました。なので、敷居を全く感じませんでした。
始め、馬が敷居高いなんて全く思いませんでした。
大学の先輩に教えてもらった時、
「手綱持ったら100円な」「無理です!」「はい、持った100円」。
遊んでる感覚でゲーム性を持って楽しく乗っていました。
ここの人たちは人の良い部分を見ようとしている。どうすればそれを引き出せるかを常に考えている。自分もここに入ったらそうなれるんちゃうかなと思って入りました。
角田:そうだったのですか。どうでしょう。なれたと思いますか?
阪本:いや、まだ全然!それがここの人生グラフ*1が下がってるところなんですよ。
角田:なぜ現在、人生グラフが下がっているのですか?
阪本:今まで自分のやりたいようにやってたから。このままじゃいかん、自分を変えていかないと、と思っているからです。
今の理想と現実のギャップが大きいです。
でも、今は助走期間。地味な努力が必要な時間。自分と向き合う時期だと思っています。
ドラゴンボールでゆったら、「精神と時の部屋」に入ってうーっと言っている状態です。体力はあるけど、精神力が回復しない。
自分の目に見えない部分をどう良くしていくかですね。
そこを今までは鍛えてませんでした。
角田:現在、迷うことが多いですか?
阪本:俺は今、子供たちに何を伝えたくてここにおるんかを今まで明確に持っていませんでした。
何となくならあったけど、ほんまにこれかなあ?
ここを見つけないと、何しゃべっても子供に響かへん。俺のおなかの底から上がってきたこと、ほんまに伝えたいことを言わないと。
でも、誰も答え言ってくれへんし、他の人の意見聞いても、自分が一番納得せえへんと思うんよね(笑)
必死に探してる最中です!
最近、一番印象的だったのが、夏休みの2泊3日のキャンプ。カップキャンドルを持って、将来の夢を語るプログラムがありました。
そこである子が、「誰かにかっこ悪いといわれても、自分がかっこいいと思える人になりたい。」と言ったんです。
それを聞いたとき、ほんますごいと思いました。誰に言われた訳でなく、自分で気づいたらしい。
こうやって、何かが見えてくれると嬉しい。
こどもは、盛り上がってる、おちゃらけてる空間が好きだけど、こっち(楽しいだけじゃない真剣な場)も好きなんや・・・俺も好きやと思いました。
子供たちの心のよりどころにしていこうと思います。
僕と関わることで学びになってほしい。子供達にいい子に育ってほしい。・・・でも教育は多分技術じゃなくて、人格なんですよ!
馬の良いところ
~読みたくなる、開きたくなる教科書~
角田:馬の良いところは何ですか?
阪本:生きてて、一頭一頭に感情があるところです。
例えば、野球のバットは思い通りになるやん?どう雑に扱ってもなんも言わんし、それなりに成果出る。
でも、俺らの相棒(馬)は感情がある。
今日のご機嫌いかがですか? ほーそんな感じなんや。
常に馬に合わせ、譲るところは譲らなくてはいけない。
それによって次の日のパフォーマンスが変わるんです。自分のやりたいようにやっていると、馬にいつか牙を剥かれる。馬に合わしていかないと、良い動きができないんです。
自分が馬によっていくべきだと思います。
9年関わってきて、自然にこの考えに至りました。
最初は鞭で叩いたりしたけど、上手くいきませんでした。うまい人だとめっちゃ良い動きをするのに。
違いは何なのか、色んな人、馬に教えてもらいました。
人から、「馬は生きていくうえで大切なことが書かれた教科書」と言われたことがあります。
読みたくなる、開きたくなる教科書。
馬の良いところはそこかな。
角田:馬のことが分かってきたなと思ったのはいつですか?
阪本:いや、今でもマジで分からへん。
野球、サーフィン、スキー、自転車・・・色んなスポーツをやってきたんですが、
一番奥が深いと思ったのは、馬です。だから、まだまだ底が知れない。
どの馬関連の人に聞いても分からんって言うと思います。
特に新馬調教になると、上手いこと行かんし、分からへん。
犬とか分かりやすいのに。
水飲みたいんかな?と思ってバケツを持っていくと鼻でボン!違ったわ・・・ってなります。
角田:そうなのですか。意外ですね。
阪本:乗馬指導の時は「分かっている風」に装っています。
嫌そうだなーとか、緊張してるなとか、ちょっと分かってきたから。
自信もってはっきり言わんと、お客さんも不安になります。
自分の言うことに責任と自信を持つようにしています。
少し迷っていたとしても、「今はこうです」と言い切る!
何でも自分たちでやる時
~どんなことも遊び心を忘れず~
角田:お2人は他に聞きたいことはありませんか?
志水:私は聞きたいことが沢山あるので、始めは稲葉さん、お願いします。
稲葉:では私から。
何でも自分たちでやる時に苦労したことはありますか?
阪本:どんなことにおいても、どちらの側面を取るかで変わってきます。
夜中、雨の中泥水をかきあげる。字面だけ聞くとしんどそうですが、違う。その時、俺たちは目を輝かせていた。おっしゃやったるぞ!と。そこを仕切っていたのが遊び心を忘れないシュートさんでした。
俺ら良いことやってるなー!と思うと燃えてくるやん?
常に良い方をシュートさんは教えてくれていました。ただ楽しかったよりも、むしろそういうことの方が記憶に残っています。
サマーキャンプのために未舗装の道を、「一般家庭用のでっかい冷蔵庫」を皆で抱えて持って行ったこともありました。真夏、ばりくそ暑かったことは今でも覚えてます。
遊び心をずっと忘れないことで、名前のない遊びになります。
「手作りするのしんどい」より、「今後多くの人が使ってくれるものだ」と思うと、ええなと思います。
大切にしていること
~何事にも愛を持って~
志水:阪本さんの日々、大切にしていることは何ですか?
阪本:良い質問ですね。
できているかは分かりませんが、何事にも愛を持ってやりたいです。
愛は難しいけど、仕事の裏に人がイメージできているか。
例えばチラシ。受け取った人が見やすいな楽しいなと思ってくれるか。
掃除だったら、誰かがピカピカにしてくれてるんやろな。
そう思うようにしています。
学生へ
志水:最後の質問になります。学生へ一言お願いします!
阪本:これなら昼夜を問わず、一生やりたい!っていうものに早く出会ってほしいです。それを見つける努力をしてほしい。僕もその最中なので、一緒にやっていきましょう!
角田:阪本さん、ありがとうございました!阪本さんはこども達のことをとても大切に考えながらお仕事をされています。大学生時代の悩んでいた時期を乗り越えたエピソードも、とても勉強になりました。
私は今回インタビューさせていただいて、阪本さんのどんな時も遊び心を忘れないところは今後特に心がけたいと思いました。しかし、「精神と時の部屋」に入るような、厳しい時が社会に出ると必ずあることも知りました。この先やりたいことを具体化できるよう、この大学生活で自分を鍛えていこうと思います。
今回インタビューさせていただき、本当にありがとうございました。これからも阪本さんと、ハーモニィカレッジの方々を応援しています!
メインインタビュアー・文責:角田
サブインタビュアー:志水、稲葉
*1:今までの人生の出来事、その時の感情を折れ線グラフにして書いていただく事で、今までの人生で楽しかったこと、辛かったこと等を大まかに把握することができるグラフ